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私はただあなたのシナリオ観客

復讐なんてや

取り出してないよ。まだ埋まったまま。でも、君たちが欲しいのは治療薬でしょ?そっちのを渡してくれたら、レイチェルを返すよ。取り出して、好きなだけ治療すればいい」
敦の読み通り、歩もレイチェルの体内に治療薬が、葉月の体にラストリゾートが隠されていると思っているようだ。そして、それはまだ、レイチェルの体の中にあるらしい。
歩くんラストリゾートを何に使うの?」
葉月の問いに、歩は不愉快そうに顔をしかめる。
僕の目的は東雨宮一族を徹底的にぶっ潰すことだ」
一族って、私も?須藤のおじさまたちも?」
葉月の言葉に、歩はさらに不愉快そうな顔をする。
キミはもう、充分報いは受けただろ。船から突き落とされて、記憶を奪われて、大切な人を忘れた。もちろん、父さんと母さんにも、報いは受けてもらう。」
どうして?だって、おじさまたちは、歩くんをとても大切にしてたじゃない!」
表向きは、ね。所詮あの二人は東雨宮に買収された立場だ。僕を育てるために大金を受け取り、サマーキャンプから戻って僕が荒れ始めても一回も僕を叱ったり、怒ったりしなかったよ。」
歩は過去を懐かしむように、そして自嘲気味に笑う。
ヤバい事件を繰り返しても、誰にも何も言われず、金と権力にモノを言わせて闇に葬るだけだった。最終的には留学しろと、外国に追いやられた。これで大切にされてたなんて言える?」
その言葉を聞き、敦はいたたまれなくなる。あのキャンプの後、敦は歩にしてやれることがあったのではないかと思う。全て覚えている唯一の自分が、助けになれたのではないかと思った。
だが、あの時点で敦にできることはない。そもそも歩が覚えていることすら、刑事になって調査の結果上での推測にすぎなかったのだ。
でもね、歩くん」
葉月はゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
おばさま、言ってたよ」
何を」
歩にピアノを習わせたのは、最初は指の機能の回復を楽しくできるように。リハビリ目的だったんだって。でも、いざピアノを始めてみたら非凡な才能があって、辛い生い立ちのこの子に、こんな神様からのギフトがあったんだって、すごく嬉しかったんだって」

ピアノを頑張って有名になって、自分の人生を豊かなものにしてほしい。そして、歩君を捨てた叔父さまを、祖父を見返してやりたかったって。おばさまは自己満足かもしれないけど、血のつながりはないけど、大切な我が子を軽んじたあの人たちに、一矢報いてやりたくて、ピアノを続けさせて、留学もさせたんだって言ってた。追い出したわけじゃなかったんだよ。東雨宮のことは忘れて、ピアノに専念できる環境を整えたかたって。そのためにおじさまとおばさま、祖父に頭を下げて留学費用を捻出したって」
先月、歩の生家に挨拶に言った際、歩の養母である須藤公子から聞いた話を思い出しながら丁寧に伝えて行く。この話は、歩に直接話すべきだと思い、誰にも話していなかった。
でもだからって、もう復讐なんてやめて、とは言えない。歩くんが東雨宮一族を恨んでる気持ちもよく分かった。」
そんな話聞かせて、キミは僕にどうして欲しい訳?今更引き返せない。わかってるでしょ?」
一緒に東雨宮を倒そう!」
は?」
予想外の誘いに、歩がぽかんとする。
このカプセルに入っているのは、ラストリゾートじゃない。」
なんだって?」
葉月!」
栄太に止められたが、葉月は栄太を目で制して、まっすぐに歩を見つめる。
私が持っていたのが、治療薬なの。言わずに、交換してラストリゾートを捨てて全て終らせることもできた。でも、私は、私たちは歩くんと和解したい」
じゃ、じゃあ、レイチェルの方がラストリゾートだって言うのか?」
歩の動揺した声に、危機感を感じた敦とザンがこっそり顔を見合わせ、武器に手をかける。
そう。だから、皆で協力して東雨宮と戦おう?」
どうして」
歩はぼんやりとレイチェルを振り返り考えを巡らせている。
歩」
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